平成29年12月2日、北國会館にて、北國生きがい健康支援事業平成29年度第2回金城大学プログラムが開かれ、医療健康学部教授・佐々木賢太郎(ささきけんたろう)氏が「なぜ、歩くとつまずくのか?『つまずき』を科学する」と題する講演を行いました。二足で歩くヒトにとって「つまずき」は日常よく経験する現象ですが、「つまずき」から転倒し死に至ることもあります。これまでの研究成果から「つまずき」を科学的に明らかにします。
なぜ、つまずくのか、若者も、高齢者も誰でもつまずきます。そこには何が関与しているのか、歩き方、身体的イメージ、脳力という3つの視点から考えます。
ヒトは、支える足と振り出す足の動作を交互に繰り返して歩きます。その、振り出す足のつま先が下に向かって振り出されるときに「つまずき」が起こることが解りました。通常、足が振り出されるとき、床とつま先の距離はおよそ1.5cm、これが0cmになると「つまずき」が起こります。このつま先の高さは膝の曲がり方に影響され、膝の曲がり方は地面を蹴ることで大きくなります。
「つまずき」を減らすための歩き方には、地面を蹴って膝を曲げることがポイントで、そのためには足指の柔軟性と筋力が大切と示され、柔軟性を高める運動やストレッチ方法が紹介されました。
つまずいた後に「足を上げたつもりが上がっていなかった」とよく言いますが、これは感覚と身体のイメージのズレ(誤差)よるものと言われています。実際に、金城大学で身体イメージ計測装置を開発し、このイメージのズレを年代別に計測した結果、70歳以上の方からズレが1.5cm以上になることが解りました。この1.5㎝と言う数値は、振り出した足のつま先と床との距離と同じことから、感覚が鈍くなると実際の身体とのズレが生じ、つまずくことが解明されました。ぜひ、定期的に鏡に映る自分の身体をチェックして、感覚と身体イメージとのズレを解消していただきたいと思います。
床とつま先の距離の平均では、年齢による大きな差はありませんが、高齢者に「つまずき」が多いのはなぜなのか。
高齢者は若者に比べて、床とつま先の距離にバラツキが大きくなる傾向が見られ、この原因には、脳力つまり注意力と認知力が関与すると考えられます。認知機能が低下した人は、低下していない人に比べて、歩行のバラツキが大きく、一定していないため2倍以上転倒しやすいという研究結果から、脳の遂行機能の中枢である前頭前野が、加齢に伴い顕著に萎縮する(65歳で10%が萎縮すると言われている)ことから起きるのではないかと言われています。
また、ストループテストや課題をしながら歩く(脳力を使いながら歩く)と、身体の筋肉が緊張したり、重心の動揺が大きくなって転倒しやすくなります。
これらのことから、元気な方の「つまずき」による転倒を予防するには、2つ以上のことを同時に行う筋力と脳力の同時トレーニングが有効と考えられます。実際、歩行と認知課題の同時トレーニングで脳の前頭前野の血流が改善し、遂行機能の改善の可能性があることから、加齢に伴う認知機能の低下の改善と、転倒防止効果が期待できると示唆されました。
聴講者も参加して、筋力と脳力の同時体操の中から、肩甲骨の運動と頭の体操を合わせた「ジャンケン」と足踏み運動と合わせた「数字」を実践し、日常への取り入れ方も紹介されました。
講演後、身近な関心事として多くの質問があり、中でも地域格差による運動機能や能力の違いについては、現在、研究課題として取り組んでいることや、人工関節での歩行時の注意にまで話はおよび、和やかにプログラムを終了しました。