NEWS 平成29年度 第12回 保健・医療・福祉創造フォーラム「子どもの育ちと育みのためにできること」報告

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平成29年度 第12回 保健・医療・福祉創造フォーラム「子どもの育ちと育みのためにできること」報告

本学が北國新聞社と共催する「保健・医療・福祉創造フォーラム」も12回目を迎えました。今回は、来春子ども福祉学科を開設するにあたり、森のようちえんてくてくの園長小菅江美氏をお招きしての講演とともに、「子どもは『なに』で育つのか」をテーマとしたシンポジウムを開催。大勢の聴講者が熱心に耳を傾けました。

日時 平成29年11月18日(土)13:00~16:20
会場 金城大学 社会福祉学部棟 110大講義室
スケジュール 13:00 開式
13:15~14:30 講演
■テーマ:「森で育つ子どもたち」
講演者 NPO法人 緑とくらしの学校 理事長/森のようちえん てくてく 園長 小菅江美氏
14:45~16:15 シンポジウム
■テーマ:「子どもは『なに』で育つのか」
16:15 閉式

 

大会長の挨拶

半谷 静雄氏(第12回大会長 金城大学 学長)

金城大学は2000年に発足、2007年に医療健康学部、2015年4月に看護学部と大学院を開設し、医療福祉を担う大学として、市民の皆様の健康長寿を目指し、多方面で地域と連携しております。
現在、少子高齢化が進み、団塊の世代が後期高齢者になる2025年には、5人に1人が認知症を発症する可能性があると言われています。最近は、エピジェネティクスの研究から、遺伝子レベルの変異ではなく、遺伝子を格納している金庫のようなものの扉の開け閉めの変化が、がんや生活習慣病、認知症、統合失調症の遺伝子の発現に関与していることがわかってきました。昔から、「三つ子の魂百まで」という諺がありますが、胎児期、幼少期の環境がエピジェネティクスのメカニズムを介し、その子の将来に影響するということから、育ちと育み、とくに幼少期の育みがどのような影響を与えるのかを探る手掛かりとして本フォーラムが、皆様の健康長寿の一助となることを祈念いたします。

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来賓の挨拶

片岡 穣氏(石川県健康福祉部次長)

第12回保健・医療・福祉創造フォーラムの開催をお喜び申し上げます。また平素から石川県の健康福祉行政の推進に格別のご理解とご協力を賜り、感謝申し上げます。
石川県では、高齢者のみなさまが、住み慣れた地域で安心して暮らせるよう、医療・介護・介護予防・生活支援が切れ目なく提供できる地域包括ケアの構築に向け、様々な取り組みを進めております。健康寿命の延伸のため、いしかわヘルシー&デリシャスメニューの開発、少子化対策として第二子の保育料の無料化、プレミアムパスポートの対象拡大などの施策も実施しております。
本フォーラムが、地域福祉の向上に大きく寄与するものと期待し、金城大学の発展と皆様のますますのご健勝を祈念し、お祝いの言葉といたします。
(石川県健康福祉部長 山本陽一 代読)

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井田 正一氏(白山市副市長)

第12回保健・医療・福祉創造フォーラムが多くの皆様のお集りの中、開催されますこと心からお喜び申し上げます。また、主催の金城大学様、北國新聞社様に深く感謝申し上げます。金城大学と白山市は、2011年に包括協定を締結、以来まちづくりに大きく貢献していただいております。
白山市の第2次総合計画のテーマは、健康で笑顔あふれる元気都市白山です。市民それぞれの健康と、産業、まちづくりも全てが健康でなければならないと考え、18歳までの医療費無料化や家庭看護力の向上、不安を取り除くため妊婦検診の回数増加、子ども食堂などに取り組んでおります。本フォーラムが、皆様に実り多いものになりますよう期待いたします。

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講演

「森で育つ子どもたち」

講演者:NPO法人 緑とくらしの学校 理事長/森のようちえん てくてく 園長 小菅江美氏

●森のようちえんのきっかけ

小学校教員時代、研究指定校の総合学習として取り組んだポニーの飼育では、全てがポニー中心に進み、そして、ポニーのいる場が友人との関係を築いていくつなぎの場となっていました。このポニーを引き取ったことが、現在の私の活動である森のようちえん、また自然と子どもの育ちへどう関わるのかということを考えるきっかけだったと思っています。

●デンマークの森のようちえん

学校をやめてポニーを飼育していた時に「さあ森のようちえんへ 小鳥も虫も枯れ枝もみんな友だち(石亀泰郎著)」という本に出会い、知人の後押しもあり、実際にデンマークの森のようちえんへ視察に行きました。
森のようちえんは、1950年代に始まり、社会に認知され、現在、自治体が運営する公立の幼稚園として、北欧4カ国、ヨーロッパ、とくにドイツで多く設置されています。
視察した森のようちえんでは、1年を通して、1日中森で過ごします。子どもたちは自分達で歩くコースを決めて森に入り、動物になりきって遊んだり、倒木の橋を利用したりと、1日4時間、距離で6キロほど森の中を歩きますが、教師は子どもの力を信じて待ち、見守るだけでした。
ひとつのエピソードですが、ずっと仲間入りをせずに教師と手をつないで森を歩いている子について「どうして他の子ども達と一緒に歩くように言わないのか」と尋ねると、「この子は、今できる学びをしていて、仲間入りできる日が来れば、私達が必ず後押しします」と答えが返ってきました。つまり、森のようちえんでは、おとなは介入せず、見守っていることで、子どもが自然の中で考え、想像にひたることを保証していたのです。

※森のようちえんの一日

9:30 園舎に集合、準備
10:30 ランチボックスを持って森の中へ
12:00 森の中でランチタイム
14:30 園舎に戻りおやつタイム
15:30 お迎え

●なぜ私達は森を子どもの育ちの場として選ぶのか

デンマークから帰国後、育みの場と、一緒に高め合える仲間、子どもを見守ってくれるおとなが必要と考え、未来の可能性を感じる森のようちえんてくてくを始めました。
てくてくでは、デンマークと同様に活動はすべて子ども達が考えます。例えば、制作では、それぞれ自分のできる役割をみつけ、一緒に一つのものを完成させ、がけ登りでは、みんなで協力して登りきります。自然とふれあい、異年齢の子どもが群れて育っていく中で、非認知能力、つまり目標に向かって自分で考え、あきらめず、やりとげる力が導き出されていきます。
今、人工知能など世界がどんどん進化していますが、様々な揺らぎがあり、自然と乖離し、何かと不安を感じます。でも、人にとって良い方向に進化すれば、水やエネルギーに満たされる世界が来るかもしれないと思い直し、そのためには、自然から学ぶこと、そして「心」がキーワードとなっていくのではないでしょうか。その心を育てる幼児教育は、ますます重要になっていくと考えます。

●質疑応答

あるこども園の園長より「親の理解と支援をどのようにとっているのか」との質問があり、「親には、森の手入れや畑や田んぼの作業をお願いしています。また、必ず当番で一人が活動に付き添い、親も子どもと一緒に育つような取り組み方をしています」と語られました。途中、動画を見ながら、森で遊んでいる子どもたちが何をしているのかというセッションもあり、和やかに講演を終えられました。

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シンポジウム:子どもは「なに」で育つのか

コーディネーター
 側垣順子氏 金城大学社会福祉学部教授
シンポジスト
 木谷一人氏(とりのなくぞう企画 主宰/いしかわ自然学校 インストラクター)
 小野博史氏(白山市主任児童委員 委員長)
 浅野君枝氏(幼保連携型認定こども園かもめこども園 園長)
アドバイザー
 小菅江美氏(NPO法人緑とくらしの学校理事長/森のようちえん てくてく園長)

豊かな自然と歴史文化に恵まれた石川県ですが、核家族化、生活スタイルの都市化は進み、暮らしや家族のありようにも影響をもたらしています。その中で、子育て及びその家族を、社会全体で支えていく事が必要とされています。今回は、子どもの育ちや育みに関わる思いや意味を問い直し、子育てに携わる3人のシンポジストと、アドバイザーの小菅氏とともに、子どもは「なに」で育つのかについて探ります。

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自然体験活動を通して、伝えたいこと

木谷一人氏(とりのなくぞう企画主宰/いしかわ自然学校 インストラクター)

ボーイスカウトの経験を活かし、こども園での自然体験活動を実施しています。幼児期の自然体験を通して、ワクワクしたこと、くやしいこと、つまり非認知能力・心の育ちがあると思います。子どもが、自分の心をどう育てるか、自分がどうすればいいのか考えていけるように、4間(時間・空間・仲間・手間)をかけていく必要があると考えます。

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地域で見守る子ども達

小野博史氏(白山市主任児童委員 委員長)

主任児童委員として子ども達の課題解決のため、地区の中の教育機関、福祉機関を繋いでいく役割を担っており、地域で子どもを見守る、育てる環境を作っていきたいと考えます。私自身、異年齢の子どものコミュニティー活動が活発な地域で育ち、自分の居場所があることでほっとし、安心した経験から、地域の中に子どもの場が必要と感じています。

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どの子も“いま、ここ”を懸命に生きている

浅野君枝氏(幼保連携型認定こども園かもめこども園 園長)

子どもの心の内を考え、おとなが子どもを決めつけない、あきらめないという観点から、指示、命令、禁止語のない、子どもが中心のこども園を作っています。子どもとともに“いま、ここ”を積み重ね、心が満たされて、新たな意欲、決めていく力が子どもの内に育ち、その子のよさをこども園の保証した環境の中で、引き出したいと考えています。

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小菅江美氏(NPO法人緑とくらしの学校理事長/森のようちえん てくてく園長)

子どもの育みに、森や自然が関わっていくことで、幼児期の体験が豊かで深い学び、つまり心の育ちがあります。森は認め合い、信じて待てる場所であり、昔は、地域の中で子どもが育っていたように、人間が補い合って、手を取り合っていく「居場所」です。これが育みの場となっていくと考えます。

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各シンポジストの発表の後、「いま、ここ」「居場所」「心」などのキーワードをもとに、ディスカッションが行われました。最後にコーディネーターの側垣氏が「自然にあるくぼみやよどみ等は、現代や大人にとって、一見、不安定で気持ちや居心地悪そうですが、それが子どもに多様な気づきや自発的でやりとげる力を育んでいました。また子どもの力を信じ、待ち、見守る大人がいました。そういったものが子どもを育てる「なに」であり、森に限らず地域や大人に求められているのではと考えさせられました。本学は、来年こども福祉学科を開設いたします。このフォーラムが、次に飛躍する一歩となればと思います」と結びました。

 

閉式の挨拶

加納 宏志氏(第12回副大会長 金城大学 副学長)

今年のフォーラムは、来年、本学に子ども福祉学科が開設されるということで、児童福祉、幼児教育をテーマに開催いたしました。このフォーラムで、我々おとなの都合で子どもの環境を制限していないか、忘れてないかということを諭されたように思います。子どもの目線で、過去と現在を比べること、温故知新が一番大切なのではないでしょうか。今日のフォーラムが皆様のこれからの研究や行動の糧になればと思います。

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司会進行は、金城大学社会福祉学部教授の内慶瑞氏が担当しました。