9月23日、北國会館にて、北國生きがい健康支援事業平成29年度第1回金城大学プログラムが開かれ、看護学部教授・彦聖美(ひこきよみ)が「男性介護者支援を考える」と題する講演を行いました。急速にすすむ高齢化社会で、介護者においても男女比がなくなりつつある中、いまだに報道などでは、介護離職や孤立などマイナスのイメージが先行する男性介護者に対し、どのような支援をすればいいのかについて方向性を示しました。
男性介護者と一口にいっても、十人十色、家族の歴史や愛情、幸せの形もそれぞれです。理事をしているNPOいしかわ在宅ねっとの活動を通して、出合った男性介護者の方々は真面目で優しい介護で、強い思いを持ち、一人でがんばっている方が多くみられました。男性介護者をとりまく報道のキーワードは「頑固」「孤立」「虐待」というネガティブイメージが先行する中で、男性介護者自身が健康で幸せであれば、介護される人も幸せだとの思いから、どのように支援をしていくのか、その方向性を見つけるために研究をはじめました。その中で、いかにポジティブなイメージを発信し、男性介護者の力=強みをどう捉えてアピールしていくのかを考えていきます。
国民生活基礎調査から介護者の性別割合の推移を見ると、男性介護者は年々増加する傾向にあり、男女比がなくなってきたことが明確になっています。
また、2012年から2015年にかけて、男性介護者の全国実態調査を実施しました。8都道府県の地域包括支援センター、居宅介護支援事業所の介護支援専門員(ケアマネジャー)を対象に質問紙の形式で実施し、その結果から、全介護者に占める男性介護者は約30%、そのうち、単独で介護を担う男性が15%、夫婦共同介護もしくはほかの介護者との共同介護(チームを組んでの介護)が残り15%とみられ、配偶者である夫介護者もいれば親子間の子ども介護者、最近はお孫さんとか多様な形態の介護者像がうかがえます。
また、男性介護者に関連した報告の中に、被虐待高齢者からみた虐待の続柄は、夫と息子が6割以上を占めるとか、介護・看護のために前職を離職した者のうち男性の過去10年の増加率38.7%などがあります。ここから、健康(メンタルも含む)や生活がいきなり破綻するリスクが極めて高いこともうかがえます。
男性介護者の虐待とか、介護離職の増加とか孤立しやすいなどは、報道の影響もあると思いますが、日本文化の根強い性別役割意識が背景になっていることも考えられます。これは子育てでも同様ですが、女性が介護するというイメージが定着しており、今後変わっていくもの、変わっていくべきものと考えています。
男性介護者は、健康や生活がいきなり破綻するリスクが高いと考えられることから、どう支援していくのか、その方向性をさぐるため、実施している2つの事例を紹介します。
男性の介護者を支援するため、男性介護者の方と2012年8月「百万石介護メンズ倶楽部」を作りました。発足後すぐにホテル百万石が倒産し、縁起が悪い(笑)とも思いましたが、月1回の会合で、情報交換や頑張りの共有と介護レベルの向上を目標に、自発的参加として、お金のかからない形で運営。情報交換、ピアサポートとして同じ体験を持った者同士が共感、助け合い、切磋琢磨し成長していくことができました。時間の経過とともに、介護状況も変化し、参加者が減少、ここで見守る後方支援が大切なのではないかという課題が浮かびあがり、発展的に解散。2017年4月に男性介護者カフェ金沢YAROH!(かなざわやろう)として新たにスタートしました。これの命名はYahoo!ヤフーから、がんばろうを願ってです(笑)
2012年から現在も続いている活動で、「楽ちん・おいしい・幸せご飯づくり」と題し、羽咋市、輪島市、金沢市、中能登町、白山市で料理教室を開催しています。女性はお茶とお菓子があれば、どれだけでもお喋りできますが、男性はお喋りが苦手です。男性介護者が困難に感じている日常の料理を一緒につくりながら、そして、回数を重ねることで、仲間意識が生まれ、交流の効果として会話が弾むようになりました。最近はどうだとか、他愛もない会話から情報交換、気持ちの共有ができ、笑顔が増え、連帯感も生まれてきています。
また、介護を終了した方に介護OBとして参加していただき、介護経験や介護終了後の自身の「生」に向き合う取り組みなど話していただく機会を持つようにしています。これには、介護が終わった喪失感へのビリーブメントケアとしても期待できます。
ここで、旭川でのエピソードを1つ紹介します。地域での介護者の会で、ある男性介護者が、認知症の奥様についてほかの男性介護者から「以前は踊りが上手でよく地域の人のお世話をしていた」と聞き、嬉しくて顔が顔がぱっと明るくなったことが印象的で、今も忘れられません。「住み慣れた地域で最後まで~」という地域包括ケアシステムですが、このような地域での交流イベントを通じて、過去と現在(そしてきっと未来)を繋ぐ場を作る、循環型のピアサポートへと発展していけるのではないかという方向性がみえたように思えます。
男性介護者の実態を知り、支援にいかすために、質問紙の形で北陸3県(石川県・富山県・福井県)男性介護者、男女の家族介護者の実態調査、および性別ストレス対処能力調査を実施しました。
その結果から、男性介護者の特徴が明らかになりました。
男性は「家事」「経済的な事」「自分の時間がない」「外出ができない」ことに困難を感じ、家事支援への要望が高い傾向が見られました。SOC(首尾一貫感覚:日常生活上における様々なストレスフルな出来事に対して人が持つ対処能力を数値化したもの)は、年齢が上がり、健康な人ほどSOCは高い傾向があり、男性介護者は状況把握・分析力、予想する力が高い傾向が見られ、女性介護者はやりがい感、達成感が高い傾向が見られました。
一方、性別の特徴として、男性は、被介護者を大切に思い、介護は生きがいと感じ、弱音を吐かずに奮闘する傾向にあり、女性は他者と思いを共有したい傾向が見られました。
調査から、男性介護者は女性介護者より「家事」「経済的な事」に加え「時間がない」「外出ができない」事に困難を感じており、副介護者がいない(他に頼れず頑張る)状況で、ヘルパーサービスを利用しながら介護を行っていることが特徴としてあげられます。とくに、息子介護者は身体のヘルパーサービスを利用する傾向にあり、親の身体的介護という直接的なケアへの参加に対する困難さが見られます。
男性介護者の特徴である、家事、経済的なことに加え、自分の時間がない、外出ができない事への困難感、副介護者がいない、他者に介護依頼できない状況のリスクの分散させるために、副介護者の発掘・育成、社会資源の活用の提案、他者や地域との関わり・ネットワークの構築が考えられます。
続柄から考えると、夫介護者では、高齢、健康問題、被介護者の要介護度が高いため、健康への支援、加齢に伴う介護スタイルの変更の提案、施設介護・レスパイト(介護している家族が一時的に介護から解放され休息をとれる支援)取り入れの提案をしていくことが大切と考えられます。
息子介護者は40~60歳が中心で、未婚、有職者が多く、親の「身体介護」への困難さから、仕事との両立支援、社会との繋がり強化、必要な介護サービスの導入の提案をしていく方向性での支援が大切と考えられます。
付録ですが、就労と介護の調査研究から見えてきたことの中から、家族介護に関心を持つ者が7割強ですが、準備をしている者は4割と少なく、関心が介護への準備行動に繋がるわけではないこと、また女性に比して男性は介護休業を利用しにくく、働き盛りで正念場の40~50歳代は特に取得しにくい状況にあると推測できます。柔軟な働き方ができるような勤務体制の構築や支援制度の整備、情報提供が必要と考えられます。
公衆衛生学の視点から、疲れきってしまう前の予防が重要であり、バリアフリー(治療、ハイリスクアプローチ、個別的な支援の視点)からユニバーサルデザイン(予防・ポピュレーション、集団的な支援の視点)へと方向を変えていくことが必要と考えます。
例えば、女性の下着売り場を男性がウロウロできますか?できないですよね。では、下着を介護用品の売り場に置けば、男性が購入してもおかしくないし、また男性販売員を配置することで相談もできます。また、昨晩ひらめいたことですが、スーパーの広い売り場を歩くのも大変、何がどこにあるのかもわからないという状況から、店舗の一角にクイックコーナーのようにある程度の品物を揃えて、そのコーナーで買い物が終わるという形にすれば、短時間で買い物ができ、時間や歩く困難さが解消される。これが、ユニバーサルデザインです。発想を転換し、「課題の多い男性介護者にやさしい介護環境は、すべての介護者にやさしい、障がいを持つ方にもやさしい環境」というアプローチにつなげることが必要です。
迫りくる大介護時代へ向けて、住み慣れた地域で最後まで生きていけるという「地域包括ケアシステム」が実現できるのか?また「家、時々病院の時代」に生活者としての自立をどう確立していくのかという点について考えていきます。
「ラブストーリーは突然に」というテレビドラマがありましたが、「介護生活は突然に」です、まず大切なのは「備える」こと。個人、家庭によって違う様々な悩みがあり、違って当然です。悩みを解決するための選択で大切なのは「そのひとにとっての最善」を考えることです。そして、生活の選択、生き方・逝き方の選択とそれぞれで最善を選んだという自信を持つためにも、必要な知識や情報を収集する力とネットワークの構築が大切だと考えます。
食の交流会として、介護者、高齢者サロン、社会福祉協議会、食生活改善推進員など地域の方々と連携した交流イベントを開催し、身近な話題と自然な形での交流の場として、顔と顔を合わせて地域内で知り合いを作り、日常生活での声の掛け合いなどの効果がでています。そして異分野交流、高齢化が深刻な地域にとって自助・互助へのステップとしての機能を持たせています。
もう一つ、能登SNS(能登における男性介護者・家族介護者と支援者のサポートネットワークシステム)構築に取り組んでいます。能登は高齢化・過疎化が深刻で、10年先の日本の姿とも言われています。人材の不足・ボランティアの不足、交通手段の選択肢が少ない、交流したいが、他の支援グループや地域との交流・連携がほとんどない、情報不足と有効な情報や資源を得る機会が限定され、地域完結型の支援になりがちです。そこで、高齢化と過疎化の深刻な地域で、少ない人・もの・資源を共有し、有効活用ができるようなシステム構築をするため、近隣地域との男性介護者地域交流会、また能登全体(4市5町)の交流を開催(今年で3年目)しています。各市町村の介護者支援を他地域とつなげ、近隣市町との協力連携とともに刺激を受ける相互作用が発展的効果として見えてきました。
余談ですが、支援者と支援者が交流する(イベント共催)形になってきたので、この能登をきっかけに、県内全市に家族介護者の会を作るのが私の野望です。
想定外の事態が急におそってくることを自覚し、様々な選択肢にそなえて、自分の考えをまとめることが重要になってきます。QOL(生活の質)を保つために望むこと、生き方の尊重、尊厳の維持など、突然に備えて、情報収集し、自立していきましょう。そして自分の意思を他者に伝えることも合わせて考えていきたいものです。
話題は少しずれますが、金城大学の3学部の共同プロジェクトでは今後の支援を考えるため、野々市市の100歳の方を対象にした百寿者調査を始めました。歯のメンテナンスがされていると、栄養がとれ、筋肉量が保たれ、かつ自宅にいることで、日常の運動(洗濯、散歩など日々の生活と段差の認知)ができていることが認知症の予防になるかもしれないという結果がでてきています。
男性介護者を助けるだけの支援ではなく、発想の転換をし、当事者力の活用、できていること・能力に着目し、その力を維持・増進する支援へと進んでいくことが望まれます。男性介護者の健康を守り、暮らしやすく、仕事しやすい社会を目指すことは、女性を含めた家族介護者全体にとって介護しやすい社会の実現を意味します。あきらめることなく、ひとりひとりの出来ることを見つめ、住み慣れた地域で生きていけるような支援を実現する方向へと進めていきたいと考えています。
結びにかえて、「死生学」で有名なA.ディーケン先生の言葉から、死=生と捉え、介護される人も、介護する人もこの4つの「生」の充足を目指してほしいと思います。
①肉体的な死(生):身体の整え、苦痛がない
②心理的な死(生):生きがい、目標、心の安定
③社会的な死(生):家族・他者との良好な関係
④文化的な死(生):生活の中の豊かさ・潤い
専門家の立場から「会話が大切だということは共感している。ただ一方向になっている自分達がいる、逆に当事者の方々の声をきける場があったら教えていただきたい」との質問に、いろいろな講演や、今日の配布資料(ケアリング2017.8月号)などを通して、介護者の声や実態を発信していくことが私の役割と思っていますと、結ばれました。
本日、この場を設けていただました北國新聞、金城大学の皆様、そして活動を支えてくださった皆様、この場に参加していただいた皆様に感謝申し上げます。
これからも助けていただきながら活動して参ります。